第2話 デモドリトレーダーのフトコロ事情 〜資金管理
「まず聞こう、いま資金はいくらくらいなんだ?」
「2,500,000円が40万ほど減りました」
「デモじゃなくて」
「えええーリアルですか、云わなきゃダメですかぁ」
「進まないから早く云いなさい」
安藤はテーブルに座るとカバンからノートPCを取り出して勝手にコンセントに電源を差した。
「30万円です」渋々とユキヲ。
「最初は50万あったんですけど…」
「なるほど、その出所は?」
「去年伯母の遺産が入ったのでそこから出しました」
「ほほう、そんな話もあるんだねぇ」
「センパイ、どんなお金かって重要なんですか?」
「不要だ (キッパリ)」
「ううう (涙)」
「リアルで開始したのが半年前くらい?」
「はい」
「9月かな、この辺りか」(ドル円日足 青矢印)
「良い上げを経験してるじゃないか。まあこれで調子に乗ったってことか」赤矢印を指さしながら云う。
「おっしゃる通りです…」
「当初は50万円スタート、か、どういうやり方をしてた?」
「どういうって、『上がるなー』と思ったら買う。『下がるなー』と思ったら、、、」
「チャートを見て?」
頷くユキヲ。
「ふむ、上がるぞと思ったらその場でロング、指値とかは?」
「基本しないです」
「何枚?」
「は?」
「何通貨で勝負してるんだ?いつもは、ロット数だよ」
ユキヲの (ばっ) と広げられた両手を見て。
「10万通貨?」
「はい」
「…たしかに50万あったら10枚持てるかもしれないけど、ほとんど全力じゃないか」
「えっ、そういうものなんじゃないんですか? ハイリスクハイリターンなんだから、そういうものだと思ってましたけど」
「もちろんそういうやり方もあるだろうけど…」
「はい、」
「失くなったろ?」
「… …はい…」
「伯母さんの遺産だいぶ失くしたろ?」
「うぅっ 」
冷蔵庫から出してきた発泡酒の缶を開けた。観念したようにユキヲも自分の缶を持ってテーブルへ移動して来る。
「お前に必要なのは資金管理」
「はあ」
「証拠金に対して、3%から5%ってのが一般的だ。まず3%で考えよう」*1
そう云うとPCのキーボードを打ち始める。それを横から覗き込むユキヲ。
300000 * 0.03 = 9000円
「9000円?」
「今、一度のトレードで損失を許容できる金額だ」
「はあ、それが?」
「ちなみにキミが最近なくした伯母さんの20万円」
「もう云わないでください」
100/3 * 200000 = 6666666.6円
「666まんえん、なんですか?」
「一発で20万トバしていい人の資金額だ」
がっくりと肩を落とすユキヲ。
「ちなみに、50万円時代の場合」
500000 * 0.03 = 15000円
「証拠金が減ったことで許容損失金額も減ったということだ、分かり易い」
「えーと、つまりこの金額がなんだというのですか?」
「損切りのラインがおのずと決まるということなんだけど、ピンと来ないかい?」
「ああー、ストップロスのサイズということですか」ぽんと手を打つ。
「そういうこと。50万あったころは、ドル円なら 1万通貨つまり1ロットで 150pips まで、
2万通貨ならば半分の 75pips、3万通貨なら 50pips」
「僕が実際やってた10万通貨だと… 15pips」
「そう」
「浅いです。あっという間に持っていかれますよ」
「うん、そうならないようにポジジョンのサイズを調整するということだな。ストップの幅で自ずとロット数は決まってくる」
なるほど~ とユキヲは深く頷いた。
「ストップはどの位にしていたんだ?」
「一律50pipsです」
「ううむ、50万円入れてた時でもSL50pipsなら3万通貨しか持つべきじゃなかったんだなぁ」
「なんか儲かる気がしなくなってきました…」
「10枚張ってたんならまあそんなかんじかもな」
「あ、そこで『レバレッジ』をかけるのか」
「それはまた全然違う、確かに海外の会社なら100倍とかレバレッジを設定できる所もあるけど、僕らはバクチ打ちじゃないからね」
(つづく)
■登場人物
ユキヲ:FXデモリトレード中。少しは資金管理のことが分かったかな。
安藤センパイ:多少は心得がありそうなFXトレーダー。