第3話 鉄のオキテがあるのだよ 〜マイルール
「ま、レバレッジの話はまたの機会にしよう」
「それよりまだ大きな問題がある」
「なんですか? センパイ」
「それだ」
発泡酒の缶を指さしているようだ。
ユキヲは首をかしげ、
(はっ)
「志高く発泡酒はやめてビールにせよと?」
ぱしっ!
頭をはたかれる。
「イタイ!」
「なんで酒飲みながらトレードしてんだよオマエは!!」
はたかれたあとをさすりながらユキヲは云う。
「僕みたいな小心ものは、勢いが無いとポジション持てないんです…」
「だめだ、酔拳が許されるのは、○永○夏くらいだ」
「…誰ですか」
トレードルール(例):
- 酒を飲みながらトレードしない
- 体調が悪いときは休む
- 仕事中はチャートを見ない
- ストップロス(逆指値) は必ず入れる
- 損は取り戻せない
「酔っ払いトレードはまずうまく行かないし、ヘタに一度うまく行ってしまったら気が大きくなって大負けするまでやめられなくなる」
「はあ、まあ、覚えはありますけど」
「だろ?」
「自分自身のコンディションが良くない時は素直に休むってのも大事だ。相場は逃げない」
「なんかテンション上げたくってエントリしたりねー」
「それでうまくいったのか?」
「……」
「あと仕事中はやめておく」
「ドキっ」
「ボジションが気になって仕事に集中できないだろ」
「むむむ」
「トイレの個室でトレードしてるんじゃないだろうな」
「へへへー」
「へへへ、じゃねぇって」
「ふむ、なるほど、これらを守って慎重なトレードをしているんですねセンパイは」
「そういうことだ」
(回想 〜 昨晩のセンパイ〜)
「あははは、いーじゃんいーじゃん、これは下げるね、絶対下げるねー。おりゃー! ショートぉぉ」ぐびぐびぐび ←飲んでる
(数分後)
「ぎゃあああああ、ふまれたー!!」
(回想おわり)
「『損は取り戻せない』ってどういうことですか?」
「まぁ負けるだろ」
「はい」
「そうしたらチクショーとなって負け分取り戻そうとするだろ」
「そりゃそうです」
「トレードは一回一回別物と思った方がいい、負けても次に勝つようにすればいいだけのことだ。今の負けを取り戻そうとかするとロクなことにならない」
「そうかなぁ」
「負けたあと取り戻そうとするとどうする?」
「ドテンしますかね」
「まあそれでうまく行くときもあるが、冷静じゃないだろうから変なことするんだよ。たいてい」
「ナンピンするとかも」
「頭に血が登ってるときにナンピンとかもっての外だね」
「だめかぁ〜」
だめっ、目の前に手でばってんを出される。
「まあ、これは最低限のことだ、更に自分用のルールを決めてみる」
「たとえば?」
- 就業中はニュースサイトでレートのチェックまで
- ランチ中であればSL(ストップロス)を動かすくらいはよい (エントリは禁止)
- SLが利確ラインを越えたら、酒を始めてよい。イジって損するもヨシ
「チョット緩くなってません?」
「まあこのくらいの遊びは必要かな、楽しむことも目的のひとつだからね」
「楽しむことですか」
「まさかそんな状況で日々儲けが出せるとか思ってんじゃないだろうな」
「うううだめですか」
「だめじゃないけど、マジにやりすぎると続かないもんだ」
「てきとーにですか?」
「そうじゃなくて楽な気持ちでしばらく相場とつき合ってみる、というのがいいんじゃないか。ちょっとくらいやったところで身にはつかないよ」
「そういうもんですか」
そういうもんだね、と云うと安藤はビールをグイッとあおった。
(つづく)
■登場人物
ユキヲ:FXデモリトレード中。ルールが大事、ひとまずセンパイの云うとおりにしてみようか。
安藤センパイ:多少は心得がありそうなFXトレーダー。回想は裏の顔か。