第7話 美しき世界 〜チャート
これまでのあらすじ:
後輩の初心者FXトレーダー ユキヲに呼び出された安藤は彼の部屋へ向う。そこで安藤が見たものは… ユキヲの変わり果てた姿だった(ちょっとウソ)
詳しくは『迷宮FX』1〜6話を!
◆ ◆ ◆
夜更け過ぎ、スマホの地図を表示させながらしばらくウロウロしたが、なんとか目的のアパートにたどり着いた。
入口で部屋番号を押すと「はいよ」という声とともに自動ドアが開く。
追いかけるように「ドア開けとくよ」という声。
中に入ると部屋番号が振ってある簡略化された地図を見て、エレベータを目指す。
フロアの廊下をまたウロウロし、結果番号の書かれたドアの前に着いた。
云われた通り鍵はかかっていない、中に入る。
「センパイ来ましたよ〜」
いい所住んでいるじゃないですかー、と叫びつつ靴を脱いだ。
返事が無い。
自分用に出してくれてあるらしいスリッパをひっかけて中へ進む。
リビングらしき部屋のに安藤らしき人がいた。PCに向って椅子にかけている。
「あの〜 センパイ?」
近づいて行きディスプレイを一緒に覗きこんだ。
チャートが映っている。
「美しいとは思わないかい?」
片手に持っていたコーヒーカップを口元に運びつつ安藤が云った。
◆ ◆
「はあ」
ドル円月足らしきものをウットリと眺める安藤。
「ほらこれが、ダマシの無い世界だ」
株式のチャートにはない美しさだ。とつぶやく。
「へえ」
「この曲線美、よいね」
「そうすか」
ユキヲは思った…
マッドサイエンティストならぬ、
『マッドチャーティスト』は存在する、 と。
「はい、お土産兼講習代です」
差し出されたコンビニ袋を嬉しそうに受け取る安藤。
「おおサンキュー、ビールだビール」と云いながら冷蔵庫へと立ち上がった。
デスク側の壁一面にプリントアウトしたチャートが貼ってある。特に書き込みもない、様々な通貨ペアのものが並んでいた。
安藤が500缶とグラスを持って戻ってきた。
「センパイ背中に『チャート命』、とか彫っていないですよね…」
「ばかを云うな、そんなのはチャート愛じゃないっ」
「はぁ、じゃ、どんなのですか」
「毎年元日に、前年の四本値を一本ずつ背中に刻んで行くんだ」
さらに云う、
「そうだ、陰線だと痛さ倍増だ… 塗り潰すからな… 痛みに耐えつつ前年の相場の反省をするんだ」
ユキヲは思った…
ヘンタイも存在する。 と
◆ ◆
「さて今日はチャートの話をする」
「ハイ、お願いします」
「チャートのみでこの章は終る予定だ」
「…章ってなんですか」
まあいい、とつぶやく安藤センパイ。
もしかしてとんでも無い所に来てしまったのか? ユキヲはちょっと思った。
「さあ、なんでも訊きたまえっ! さあっ!」
「では、」
「『エリオット波動』って何ですか?」
「・・・」
「・・・それはまたな」
「弱いところを突きましたかね…」
(つづく)
■登場人物
ユキヲ:FXデモリトレード中。魔窟へようこそ。
安藤センパイ:多少は心得がありそうなFXトレーダー。マッドチャーティスト、背に彫ったのはドル円でしょうか?